高齢者が高齢者の介護をする世の中

高齢化が急速に進む日本においては、高齢者が高齢者を介護しなくてはならない「老老介護」に該当するケースが増えているようです。古くから配偶者による介護をはじめとして、親子、兄弟姉妹など、肉親による介護が当然のこととされたきた日本社会で、新たな課題が表出した形です。以下、老老介護の問題点、解決策などについて見てみましょう。

■問題点は

長期間の介護は、介護者に対して肉体的・精神的にかなりの負担を要求します。事実、介護疲れから体調を壊してしまう方も多く、従来より「共倒れ」の危険性が指摘されていました。特に認知症の高齢者を介護している介護者までが認知症を発症してしまう「認認介護」は問題が深刻で、第三者の介入が困難であることから、孤独死の要因ともなっています。

■解決策は

介護に関しては「家族の問題」という考え方が根強く存在し、公的な介入を拒む風潮が残っているといわれています。介護を支援する制度、各種の福祉施設などは年々拡充されているのですが、残念ながら十分には活用されていないのが現状のようです。また、介護施設の不足、現場の人材不足も問題の解決を困難にしているようですね。あるいは経済的な事情から、どうしても民間のサービスを利用できない、自力で介護せざるを得ないという方もいます。今後もますます高齢化が加速していくことは間違いありませんから、やはり国を挙げての対応が必要となるでしょう。介護をするご家族については、必要以上に負担を我慢するのではなく、可能な限り民間や公のサービス・制度を利用するように推奨します。

高齢者と脱水について

高齢になると身体の様々な機能が衰え、脱水症状を生じやすくなるといわれています。内蔵の機能が低下し、さらには喉の渇きに対しても鈍感になるため、自覚症状がないままに体調が悪化してしまうケースも多いようです。介護者が適切に水分補給を促すことで、高齢者の体調管理を担うことが求められます。

■正しい水分補給の方法

成人は1日に2.5リットル以上の水分を補給する必要があるといわれています。飲み物から全ての水分を補うのは困難なので、水分量の多い食事を提供するなどして、無理なく摂取できる環境を整えることが大切です。特に夏場は脱水症状を生じやすいため、たとえ空調の行き届いた室内であっても高齢者の体調には十分に注意を払ってください。糖分を多く含んだ飲み物(ジュース、スポーツドリンク)は過剰に摂取するとかえって健康面にリスクを生じます。しかしながら、一方では栄養補給の観点から摂取することが望ましい場合もありますから、ケースバイケースで対応してください。

■注意が必要な高齢者

糖尿病を発症している方、利尿剤や下剤を服用している方は脱水症状を生じやすいといわれています。また、男性よりも女性のほうがリスクが高いということも覚えておきましょう。食欲不振に陥っている方や、唇や肌に乾燥が見られる方にも注意が必要です。自身で渇きを訴えることのできない方については、水分を補給した時間を記録するなどして、介護者がより徹底した管理を行うことが必要になります。

排泄ケアについて

日常的に介護が必要な動作の一つに排泄が挙げられます。快適に排泄が行われるか否かは、生活の質を大きく左右する問題ですから、介護者はできる限り配慮の行き届いたケアを心がけなくてはなりません。オムツの交換、失禁した場合の対処など、被介護者の個人としての尊厳を尊重しつつ、スムーズなケアを心がけてください。

■オムツの利用

認知症を発症するなどした場合、尿意や便意をコントロールできなくなる高齢者が少なくありません。紙オムツを正しく利用することで、排泄の際のトラブルを予防するように心がけましょう。例えば、装着時にズレやヨレがあると、漏れの原因となり被介護者は非常に不快な思いをしてしまいます。正しい装着方法で、適切なサイズの製品を使用して、トラブルの防止に努めてください。羞恥心を喚起することがないよう、オムツの交換は手早く、かつ丁寧に行わなくてはなりません。

■排泄の介助

排泄はできる限り自立した状態で行うのが望ましいとされています。高齢者や障害者の排泄をサポートする際には、その日の体調や障害程度に合わせて、自立を促すような介護を実践してください。安全を確保するためにトイレに手すりをつける、移動が難しい場合はポータブルトイレを利用するなど、きめの細かな対応が求められます。

■スキンケア

排泄後、不潔な状態を放置していると、皮膚病をはじめとして様々な疾患の原因となります。洗浄やスキンケアは入念に行って、常に清潔な状態を保つように留意しなくてはなりません。

入浴ケアについて

介護の中でも最も介助の作業が大変だといわれるのが、入浴のケアです。体の不自由な方の入浴をケアする場合は、かなりの重労働を覚悟しなくてはなりません。可能であれば男性職員の手を借りるなどして、安全・快適な入浴を提供するように心がけてください。

■入浴の効果

一般に、入浴は体を清潔に保つ目的で行われていますが、リラックス効果によるストレス解消、血行改善による身体機能の向上など、健康面のメリットも多いとされています。加えて、入浴時には全身のチェックを行うことができますから、床ずれなど皮膚病のチェックも兼ねています。

■注意点は

一方、入浴は体に負担を伴う行為でもあります。特に高齢者の場合、血圧の変化などで体調が悪化する方も少なくありませんから、経過観察はしっかりと行い、何らかの症状が見られた場合にはすぐに医師や看護師のサポートを仰ぎましょう。主な注意点としては、あらかじめ浴室の温度を適度に調整しておくこと、排泄を済ませておくこと、空腹時や満腹時の入浴は避けることなどが挙げられます。認知症の高齢者など、中には入浴を嫌がる方もいますが、そんな際には無理やり入浴をさせるようなことは避けてください。浴室は滑りやすいですから、介護者も含めて足元には注意を払ってください。入浴後は、水分をよく拭き取って湯冷めを防ぐこと、水分を補給することなどを心がけましょう。高齢者は乾燥肌に悩まされている方が多いので、必要に応じて保湿クリームなどの利用を行ってください。

高齢者のケアと共に家族のケアも大切

高齢化が深刻化するにつれて、介護者(家族)に対するケアの重要性が指摘され始めています。特に高齢者が高齢者の介護を行う「老老介護」の環境では、過度な負担から介護者が健康を損ねてしまうケースが多発しており、公的な支援の拡充が喫緊の課題となっています。

■家族の負担軽減を

家族の負担を軽減するためには、民間の介護サービスを利用したり、あるいは公的な支援を仰ぐことなどが必要です。例えば、在宅での介護を望むのであれば、ホームヘルパーを利用するか、定期的にデイケアやデイサービスに通うなどして、「家族が休息する時間」を確保しなくてはなりません。経済的な負担については、公的な制度を利用することで自己負担分を大きく軽減できますから、まずは担当窓口に問い合わせてみましょう(各自治体毎に、介護に関する悩み相談、サポートを受け付けてくれる窓口が必ず存在します)。

■家族から話を聞くことの大切さ

きめの細かな介護サービスを提供するためには、職員と家族が連携して介護を行うという姿勢が理想だといわれています。例えば、ケアプランを作成する際など、職員が家族から利用者の趣味や嗜好、性格、生活パターンなどをヒアリングして、それらの情報を「生活の質」を高めるために活用します。完全に民間に任せ切りするのではなく、あるいは家族が全責任を負うのでもなく、ともに協力して介護に携わる姿勢が推奨されているわけですね。

介護施設での心得

介護施設では、雇用された職員が介護サービスを提供する形となります。とはいえ、接客業とは応対が大きく異なるので、基本マナーやコミュニケーションの方法など、独自の作法を身につけなくてはなりません。

■距離感は大切に

介護施設において高齢者や障害者は「利用者」と呼ばれます。対して、職員は介護サービスの「提供者」として、いわばプロとしての能力・心構えが要求されます。よき話し相手、理解者としての役割も求められますから、サービスの一環とはいえ、親しみのあるコミュニケーションに配慮しなくてはなりません。かといって友達のように振る舞うのもNGで、あくまで適度な距離を置いて接することが大切です。高齢者はいわば「目上の人物」にあたるわけですから、「親しき仲にも礼儀あり」ということを念頭に置いて接する姿勢は重要です。

■職員同士で情報を共有する

介護職員はチームプレーで職務にあたらなくてはなりません。介護の分野では人手不足が深刻であり、一人で数人の入居者をカバーしなくてはならない場面も少なくありません。個人で提供できる介護には限界がありますから、適時、役割分担を行い、一人一人の負担軽減に努めてください。入居者について気づいた点、施設利用に関する提案などがあれば、職員同士で情報を共有し、介護サービスの質の向上に努めてください。男性職員が力仕事を担い、話の上手な職員が話し相手となる、というような形で、適材適所で能力を発揮するチームプレーが理想だといえるでしょう。

在宅介護での心得

日本では在宅による介護を希望するケースが多いといわれています。高齢者(被介護者)の心理としては「他人の世話になりたくない」という気持ちが強いとされ、家族(介護者)の心理としては「家で面倒を見るべきだ」という気持ちが根強くあるようです。

■依存関係に注意

確かに介護される側としては、他人よりは家族の方が色々なことを頼みやすいですし、在宅の方が住み慣れた環境で落ち着いた生活を過ごすことができます。反面、介護者が家族であるが故にわがままになってしまうケース、依存してしまう場合も多く、注意が必要です。家族のほうでもつい親切心から介護を「頑張り過ぎ」てしまい、肉体的な負担や精神的なストレスを省みない傾向があります。過度な負担から体調を壊してしまう危険性もありますから、適度な休息を忘れないようにしなくてはなりません。また、行き過ぎた介護は高齢者や障害者の自立性・社会性を損ねてしまうリスクがあります。「自分でできることは自分で」という姿勢で臨みましょう。

■ホームヘルパーという選択肢

在宅による介護は、必ずしも家族に頼らなくても実現が可能です。ホームヘルパーなど民間の介護サービスを利用すれば、日常的な介助(食事、排泄、移動)から家事(買い物や洗濯)に至るまで、専門の職員に支援してもらうことができます。特に「老老介護」のご家庭など、介護者の負担を軽減するためにも、必要に応じて利用を検討されてみてはいかがでしょうか。

全身や情で交流表現をすること

コミュニケーションの方法は会話(言葉)だけではありません。実は、言葉以外の表現(ノンバーバルコミュニケーション)の方が、人の印象を大きく左右するといわれています。特に親しみを表現する上では話し相手の「態度」が重要ですから、仕草や表情には十分に配慮する必要があります。認知症を発症している高齢者であっても、情や身体で訴えるメッセージには感応するケースが多いようですね。

■感情表現の大切さ

介護者に対する注意として、よく「感情的になるな」ということが言われます。確かに、感情的な振る舞いはトラブルを招く危険が高いため、冷静に対応することは非常に重要です。しかし、「感情を表現する態度」は、コミュニケーションに温かみを付与する上でなくてはならない要素だといえます。つまり、こちらが相手の話に興味を持っているという態度や、喜びや共感の態度は、相手からポジティヴな感情を引き出すことができるのです。どれだけ丁寧に言葉を選んで接していても、態度が素っ気ないものであれば冷たい印象を与えかねません。介護者は、ときに実際の感情と態度を切り離して表現する必要があるわけですね。

■全身を使う表現

全身を使った表現(ボディランゲージ)は、言葉以上に話し手の印象を左右します。とはいえ、大袈裟な身振りや手振りのことを意味しているわけではなく、表情や声のトーン、テンポや大きさなどが強く影響します。同様に、手を握る、背中をさするなど「触れる」という行為もコミュニケーションの手段として有効です。特に高齢者は「印象」から情報を得る割合が大きいといわれますから、介護者は「体を使う」表現方法を工夫することが大切です。

言葉の対応は簡明に

高齢者を介護する場合には、相手の理解力、コミュニケーション能力に応じて、できるだけ簡明な言葉を用いる必要があります。どれだけ正しい言葉を用いて意思の疎通を図っても、意味が通じなければコミュニケーションは失敗してしまいます。常に「こちらの言いたいことが伝わっているかどうか」という点に配慮して、円滑に会話ができるように努めてみましょう。

■使用する言葉は相手によって変える

通常、高齢者の理解力には大きな個人差があります。認知症を発症すれば60代でも理解力は大きく損なわれてしまう可能性がありますし、逆に90歳を超えている方でも、何の支障もなく会話ができる方は少なくありません。70歳だから、80歳だから簡易な言葉を使うというのではなく、相手の理解力に応じて言葉を選ぶことが大切なのです。中には子どもに諭すような口調で高齢者に話しかける介護者もいるのですが、相手によっては失礼な態度として捉えられることもありますから、度を越した対応は控えなくてはなりません。

■通じていないと思ったら

認知力が低下すると、細かな表現や理屈は次第に通じにくくなっていきます。同じ話を何度も繰り返して説明するのではなく、適時、より分かりやすい言葉に言い換えるなどして、理解を助ける工夫を凝らしてみましょう。一つ一つの会話(文節)を短く区切る、ゆっくり話す、大きな声で話すということも有効です。こちらからの問いかけによる確認(分からない点はないか尋ねる)ことも忘れないようにしましょう。

アイコンタクトの大切さ

コミュニケーションの基本動作として「アイコンタクト」の重要性がよく指摘されます。目と目を合わせるという、ただこれだけのことですが、意思の疎通を図る際には大きな効力を発揮します。意外と見過ごされがちな要素なので、目を見て接することの意義について考えてみましょう。

■注意を喚起する

目と目が合うということは、相手の存在を把握しているということの意思表示であり、いわばコミュニケーションのスタートラインに立つことになります。特に認知症の高齢者に声をかける場合、こちらの呼びかけになかなか反応しないケースが少なくありません。しかし、対象者の視界に入り、さらには目を合わせることで、こちらに対する注意を喚起することができます。この方法は聴覚障害者、耳の遠い高齢者に対しても有効です。ぜひ活用してみましょう。

■血の通ったコミュニケーションを

目を見ながら話す(あるいは見られながら話す)と、より親しみのある態度で会話することができます。アイコンタクトはほんの些細な動作ですが、真剣に話を聞いてくれている、心を込めて接してくれているというポジティヴな感情を引き出す点に特徴があります。特に高齢者は「目上の人物」にあたりますから、目を見て話さないと失礼な印象を与えてしまう可能性もあります。親しみを表現するということ以上に、まずはマナーとしてアイコンタクトの習慣を身につけるようにしましょう。